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同和奨学金無審査肩代わり訴訟での被告(京都市長)の答弁書
(2003年2月14日付)
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答弁書より、全貸与者の返済を京都市が肩代わりしていることの正当性を主張した個所の全文を引用する。



第5 被告の主張

1 本件援助金の支出が公益性を有し、妥当であることについて

(1)本件援助金は、地方自治法第232条の2に規定する補助金であるが、補助金の交付が認められる「公益上必要がある場合」とは、当該普通地方公共団体の住民全体の福祉に対する寄与貢献があることであり(名古屋高裁昭和53年1月31日判決。行政事件裁判例集29巻1号88ページ)、また、客観的に公益上必要であると認められなければならないとされ(昭和28年6月29日自行行発186号)、その判断に当たっては、補助金交付の趣旨及び目的、支出の相手方の性格及び活動状況、補助金が地方公共団体の公益を増進する程度、交付手続の公正等の諸事情を総合して判断されなければならないと解されている(大藤敏編「裁判住民訴訟法」三協法規出版株式会社昭和63年刊112頁)。本件援助金が「公益上必要がある場合」に該当することは、以下のとおり明らかである。

(2)本件援助金の制度が導入された経過については、次のとおりである。

ア 京都市においては、同和問題は、人類普遍の原理である人間の自由と平等に関する重要な社会問題であり、今日の民主主義社会の中において必ず解決しなければならない課題であるとの認識のもと、同和問題の解決を市政の最重要課題の一つに位置付け、これまで全庁一丸となって取り組んできた。

イ 同和問題の本質について、昭和40年の「同和対策審議会答申」(以下「同対審答申」という。)では、「近代社会における部落差別とは、ひとくちにいえば、市民的権利、自由の侵害にほかならない。市民的権利、自由とは、職業選択の自由、教育の機会均等を保障される権利、居住および移転の自由、結婚の自由などであり、これらの権利と自由が同和地区住民に対しては完全に保障されていないことが部落差別なのである。これらの市民的権利と自由のうち、職業選択の自由、すなわち就職の機会均等が完全に保障されていないことが特に重大である。」とされている。

ウ 京都市の同和地区における教育の実態は、京都市が独自に行った同和地区実態把握調査の結果においても、全市との格差があったことは明白であり、京都市においては、その実態を解消すべく施策を展開してきた。その施策の中でも特に重要なものである同和地区を対象とした奨学金制度については、昭和36年度から京都市が独自に実施してきたものであり、教育の機会均等、就労の機会均等の保障は言うまでもなく、地区住民の社会的、経済的、文化的生活の向上に果たす役割は大変大きかった。

エ このような状況にあって、国は、昭和49年度(高校生分については、昭和41年度)に地方公共団体が実施する奨学金の給付制度に対する国庫補助制度を創設したが、昭和57年度に「地域改善対策高等学校等進学奨励費補助金(大学)交付要綱」において、国庫補助の対象となる奨学金を給付制度から貸与制度に変更した。

オ 京都市では、国庫補助金を受け入れるため、奨学金の制度を給付制度から貸与制度に変更したが、このことは、京都市の同和施策とりわけ国に先進して制度化をした奨学金制度の明らかな後退を意味するものであり、同和問題の解決にとっての重要な課題である教育の機会均等及び、就職の機会均等の阻害に直結する危険性を有するものであった。

カ そこで、就学に必要な学資を援助し、勉学に専念することにより必要な知識を身につけ、将来の生活基盤の安定を図り、自ら同和問題の解決に積極的に寄与していく人材育成を目的とする奨学金制度の意義と役割を損なうことがないよう、国制度による返還免除の制度に加えて、京都市独自の援護措置(本件援助金制度)を創設し、この両制度を併用することにより、従来の奨学金給付制度から後退させないようにしたものである。

(3)奨学金対象者は、低所得世帯に属し、不安定な就労等の生活実態から修学が困難であると認められる者であり、本件援助金により、将来的な返還の不安が解消され、その結果として、進学を希望する者が増え、高校進学率は、全市とほぼ格差のない状況となっており、大学進学率についても大きく向上するという効果があった。

 また、同和地区実態把握調査の結果では、職業分類別有業者数の若年層の分布は、労務作業者が中心であったものから、事務従事者や専門的・技術職業従事者に進出しており、いわゆる同和地区を対象とした奨学金制度および本件援助金により、将来的な返還の不安が解消され、その結果として、進学を希望する者が増え、高校及び大学進学率の向上により、多様な進路選択が可能となった。このように若年層を中心に幅広い分野への進出がなされたことは、自立意識の高揚を図り、同和問題を解決するにあたって、大変有意義であったことは、まぎれもない事実であり、本件援助金が「公益上必要がある」制度であったことは明らかである。

(4)原告は、本件援助金の支出が違法である理由として、貸与者全員を「返還することが困難」であると根拠なく一律に認めていることを挙げるので、これに反論する。

ア 自立促進援助金支給要綱(甲第1号証。以下「本件支給要綱」という)第2条第1項では、「その属する世帯の所得、就労等の生活実態から貸与を受けた奨学金等を返還することが困難である」と規定されているが、京都市では、次のとおり、同和地区の生活基盤は、脆弱な状況にあったため、その具体的な基準については、制度設立当時から設けていなかった。

[1]援助金の対象者は、低所得世帯に属し、不安定な就労等の生活実態から修学が困難であると認められた奨学生であること。

[2]要綱制定当時の家計収入別での生活保護受給率は、京都市全体が1・4%(昭和55年国勢調査)であったのに対し、同和地区は17・1%(昭和59年度京都市同和地区住民生活実態把握事業)であったこと。

[3]国において、「地域改善対策高等学校等進学奨励費補助金(大学)交付要綱」において、国庫補助の対象となる奨学金が給付制度から貸与制度に変更になった際に、昭和57年4月21日文部省大学局長通知により、同要綱第9条に定める返還免除の規定に関する留意事項が提示されたが、京都市においては、昭和58年度に大学に在学している奨学金の貸与者のほとんどが、国に示す「返還が著しく困難であると認められる」者に該当していたこと。

 また、中間報告の段階ではあるが、平成12年度の「京都市同和地区住民生活実態把握事業」においても、家計収入別での生活保護受給率は、京都市全体で3・1%に対し、同和地区で17・9%であり、生活基盤の脆弱さは解消されていないことから、現在においても、具体的な基準は設けていない。

イ 京都市では、上記の同和地区生活実態調査の他に、隣保館職員(現コミュニティセンター職員)等により、日常の業務の中で同和地区住民の生活実態を把握しており、その中で、統計資料や進学率に表わせない自動、生徒が置かれている状況、生活基盤の脆弱さを把握している。そのことから、その属する世帯の所得、就労等の生活実態から修学が困難であると認められた奨学生については、本件支給要綱第2条第1項にある「その属する世帯の所得、就労等の生活実態から貸与を受けた奨学金等を返還することが困難である」者に該当するものとしてあつかってきたものである。

ウ 以上のことから、本件助成金の支給の際に、個々の対象者から所得証明や源泉徴収票などの提出を求め、支給対象者を決めることはしてこなかったが、このような取り扱いをしていることには合理的な理由があるものであり、、これは、本件支給要綱に反するものではなく、また、地方自治法第232条の2に違反するものでもない。

(5)次に、原告が、一度本件援助金の支給を決定すると、以後20年間にわたって「返還することが困難」であると一律に認めていることが違法であると主張するので、これに対し反論する。

ア 本件援助金の対象者の卒業後について、本件支給要綱において、返済期間中の該当者の状況を確認する旨については、触れられておらず、本件支給要綱第6条の2第2項に関する届出が提出されない限り、当初の申請に基づき、支給している。

イ しかし、これは、今日、本件援助金の支給対象者が同和地区外へ移転することが増え、地区外の婚姻が進む中で、奨学金等貸与者に定期的な所得申告を義務付け、20年間にわたって追跡調査することが、実社会で自立している貸与者本人の社会的立場などに様々な影響を与えかねず、現在でも、身元調査や結婚問題などにおいて、課題があることなどを考慮すると、居住地調査、世帯調査、所得調査の協力依頼をすることは適当でないと考えられたからである。

ウ したがって、本件援助機の支給対象者について、事後の状態を調査しないことは、合理的な理由に基づくものであり、違法ではない。

(6)また、原告が、本件援助金の支給が、貸与者の自立を阻害すると主張するが、在学中の奨学生に対しては、奨学生集会等の機会を利用し、また、本件援助金の申請時に奨学金制度の趣旨および本件援助金制度の趣旨を十分に説明し、自立意識の阻害にならないよう対応しているもので、原告の主張は当たらない。

(7)本件援助金については、監査請求に当たり、監査委員からも指摘を受けたように、事務の改善を検討しなければならない点があることは事実であるが、以上に述べたとおり、地方自治法第232条の2の補助金に関する規定の趣旨に則り、適法に支出されたものであり、原告が主張するような違法性は存しない。



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